ナレーターメルマガ

極細木スガ子の
きっぱり言うわよ!

 

 [ 第1部 新人編 ]  第5夜

ナレーションは教わってないはずなのよネ

-前編-

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 (2006年8月17日ナレーターメルマガ18号より)

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私は女帝と呼ばれる女のその腰に手をやって、ゆっくりと揉んでいた。


固い。声業界の女帝の背負うものを感じずにはいられぬコリだ。
 
しかし、私は手をゆるめるわけにはいかぬ。
 
不可能を可能にしてき女からなにかを引き出すのに、ただでとはとてもではないが言えぬ。
 
私は自分の気持ちを伝えるためにも、しびれきった手を押し込むようにして、揉む。
 


 

教育が足りない


「先生…新人がなんとかマネージャーの信頼を得ても、それでもまだ立ちはだかる1枚目の壁とは、一体なんなのですか」
 
「養成所からあがってくる新人…にはネ…決定的に足りないものがあるのヨ……んぐ」
 
「足りないもの?」
 
「あグ…そ、それはネ…。きょ…教育…だわヨね……ンぐ」
 
教育が、決定的に、足りない…?

私は必死に、己の養成所時代を反芻(はんすう)する。
 
「教育…わかりません。養成所は教わる所のはずなのに教育が足りないというのですか?僕が教わってきたものはたくさんあるはずだと思うのですが…先生、どうかきっぱり言ってください」

「じゃ逆にきくわよ?山ちゃんはナレーターになりたいのよネ?”ナレーション”は、教わった?」
 
疲れで眉毛のあたりにたまっていた汗が一気にこぼれおち、目に入ったのは偶然ではない。
 
それは私があまりにおどろいて目を見開いてしまったからだ。
 
しょっぱい汗が目に入り、まぶたを開けていられぬ。
 
「そういえば僕は…演技を教わっていました…。二度目の養成所ではアナウンスを教わっていました…」

「その通り。ナレーションは教わっていないはずなのヨ」
 


 

《やること》を用意してもらいたかっただけなのかもしれない


様々な思いが押しよせ、私はもう、腰を揉む手を、止めていた。

私はナレーションを志していながら、ナレーションそのものは教わっていなかったのだ。俳優が、アナウンサーが、そのままの手法でナレーションを成立させることができた時代ではもはやないのに。
 
演技・アナウンス・DJ・落語など、すべてが混ざりあった「新しい表現の場」がナレーションと、言える。

だが例えば私の場合、アナウンスの要素の強い二度目の養成所で、私の演技的な表現を「だめなこと」と切って捨てられたことが思いあたる。
 
そして私の経験の逆のパターンもたくさんあることは、アナウンサー出身の知り合いから必ずといっていいほど聞いている。
 
こんな事に10年も気がついていなかったとは…

すべてが無駄とは断じて、思わぬ。
 
だが、あまりに遠回りだったではないか。いや、それも当たり前か。私は誰かに《やること》を用意してもらいたかっただけなのかもしれない…