ナレーターメルマガ

ボイス・サーガ

 この物語は声優からナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。
 第2話

声優レッスンの裏側

ボイス・サーガ

第2話「声優レッスンの裏側」

(2019年2月14日ナレーターメルマガ358号より)

「彼氏彼女を作って楽しく過ごそうなんて考えてるヤツは、今すぐ辞めて出て行け!」たちに激震を残しての社長は早々に立ち去った。そして養成所のレッスンが始まった!

 
 

 

声優レッスンの裏側

そんなこんなで、声優養成所「ラムチョップ」のレッスンは始まった。

教材はウサギやオウム、アライグマにペンギン。可愛らしい動物たちが仲良くたわむれる幼児向けアニメーションのアフレコだ。逗子丸(ずしまる)の配役は決まってゴリラのガキ大将『ゴリポン』

「なんとか爪痕を残さないと。。。そうだ自主練をしよう!」はやる心で、掛け合いがあるツインテールのニーハイ・イエローにお誘いのメールを送ってみた。
 
逗子丸「どーも、ゴリラのゴリポンです!(笑)次のレッスン前に読み合わせしませんか?」

イエロー「いつアナタがゴリポン役に決定したんですか?仮のキャスティングですよね?勝手に勘違いしないでー!それに気安いメールはホント迷惑なんです!!もう、ホントやだ!」
 
逗子丸「え、いや、あなたの練習にもなるし...え、ダメ?」

なんかメッチャ詰問された。よく分からんテンションが恐い。
 
のっけからニーハイ・イエローから想定外のヘイトを買って重い気分になってしまった。


秘密のアドリブ


数週間後。アフレコ実習もこなれてきたころ。台本はバッチリ読み込んだ。セリフも様々な言い回しで練り込んだ。
 
逗子丸は気合いも新たに稽古場に一番乗りした。その日。
「おっはようございまぁーっす☆」

キラキラの甘い声で稽古場に入ってきたのは、いつもはレッスン間際にやってくるニーハイレッドだ。

大御所声優の朗読集団に在籍して、すでに声優としての活動実績もある。エリート生徒。レッスンでも主役(センターのうさぎちゃん)を任されることが多くなっていた。
 
逗子丸「あ、おはようございます。今日は早いんですね」
レッド「ひっどぉーぃ!今日はね、逗子丸きゅんのために早く来たんだよぉ☆ニャハッw」
逗子丸「え?どういうことですか?」
レッド「逗子丸きゅんとのシーン、事前に合わせたいなって思って。練習したいでしょ☆」
(イエローとのことを知っているのか?それでもいい。感激だ!)
逗子丸「あ、ありがとう!とっても助かるよ!!」
 
ニーハイレッドとのまさかの展開。最大のライバルは最強の仲間!少年マンガの王道に逗子丸の胸が高鳴る。

レッド「せっかくだから、背景シーンに2人でアドリブしちゃおっか☆」
逗子丸「えぇー!どんなこと?」
レッド「じゃあゴリポンが『お腹すいたなぁー』って言ったら、『”甘いもの”食べたいネ?』とか聞くネ」
逗子丸「それに答えればいいんだね、バナナとか」
レッド「そうそう☆ニャハッw」
 
黒山椒「いつまでチンタラやってんだ、時間を無駄にするな!」

そういって稽古場にやってきたのは黒山椒(くろざんしょ)社長。入ってくるなり説教。
 
どうやら今日は社長が抜き打ちでレッスンを観る日だ。しかも、マネージャーの三年坂(さんねんざか)女史も連れている。

千載一遇のチャンス。逗子丸、ガッツリ爪痕残します!


裏切りは女のアクセサリー


ニーハイレッドとの事前練習が効いたのか。この日の逗子丸は冴えに冴えていた。
 
だって、いつもは
「オマエ何しに来てるんだ」
「どうしてそういう演技をするのか、その神経がわからない」など、心をえぐって、踏みつけて、ミキサーにかけて、下水に流す黒山椒社長からまだ罵声(ダメ出し)を頂いていないのだ。

逗子丸「(イケル!)」

次はいよいよ、練習した見せ場。ニーハイレッドのうさぎちゃんとのアドリブタイムだ。ここでキメルぜ!
 
ゴリポン「お腹すいたごり」
ウサギちゃん「なにか”熱っついもの”食べたいねー」
ゴリポン「バナーナッ!」
ウサギちゃん「えーーバナナはあったかくないよーあっははー☆(笑)」
ゴリポン「え?…あれ?あれ?」
 
黒山椒「ストップ!逗子丸、なにやってんだ!何があったかいバナナだ!」
逗子丸「え、あれ?おかしいな?”甘いもの”じゃ」
黒山椒「おかしいのはオマエの頭だ!アドリブならキッチリやれ!ど下手が勝手なことすんな!」

逗子丸「すっすみましぇん…」

黒山椒「ウサギはあのメチャクチャなアドリブにもちゃんと応えられたな。よしっ」

三年坂女史も逗子丸を冷くいちべつをくれた後、ニーハイレッドには、柔らかく微笑んでいる。

(ナ、ナンデーーー??)メンタルを一撃で撃ち抜かれた。
 
その後も3本のマイクに交互に入ってセリフを掛け合う。
逗子丸(ここでマイクに入るっ)ドンっ

影薄子「あ!痛っ」
マイクの取り合いで影薄子とぶつかってしまった。
 
黒山椒「カット!なにやってんだゴリラ!」
逗子丸「(小声で)影薄子さん、リハじゃあっちのマイクだったじゃない」
地味子「(小声で)だってニーハイレッドの動きがさっきと変わってて…」
逗子丸「えぇーっ!」
 
黒山椒「ゴリラ!うるさいぞ!邪魔するなら出て行け!」
 
逗子丸「いえ、マイクワークが変わって…」
黒山椒「臨機応変にするのが当たり前だろうが!」
逗子丸「すっすみましぇん…」

ニーハイレッド「ニャハッw」

まさか、ハメられたのか…声優界の底辺でのマウントの取り合いは始まっていた。
 
レッスン後、情報通の蛍光タイツのニーハイピンクが、こちらをチラチラ気にしながら声をひそめていた。
 
ニーハイピンク「マネージャーの三年坂女史の仕事で失敗すると、確実に3年は干されるってよ」

京都にある三年坂「転ぶと三年後に死ぬと言われる坂。よくても確実に3年寿命が縮まるらしい」
 
遥か遠くに見えていたはずのアルプスの頂は、一歩も登っていないのに、吹雪いて見えなくなっていた。