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 この物語は声優からナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。
 第8話

預かりの風景

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第8話「預かりの風景」

 

ここで再び話は逗子丸(ずしまる)へ。背中で泣くニーハイレッドに淡い気持ちが(※2話と5話参照)しかし運命の昇格審査の日は迫っていた。

 

 

 

預かり


声優養成所での怒濤の1年が終わった。逗子丸はその日、郵便ポストの前を行ったり来たりしていた。恐怖の黒山椒(くろざんしょ)社長、味方か敵か分からないクラスメイト、先輩のマウンティ ング。 ゾンビとなった初現場。幾多の苦難を乗り越 えてきたのだ。
 
逗子丸「うごぉーーーーー!!!シャッチョーーーー!!」

住宅街に雄叫びが響き渡る。封筒には《“預かり”所属とさせて頂きます。》の一文。衝撃だった。手応えはあったつもり、レッスンでも爪痕を残したつもりだった。でも、あの1回の収録以降、お仕事の声はまったく掛からず。つもりというやつが一番怖かった。まさかまさかというのがホントのところだった。社長は俺のことを見ていてくれたんだ!!うごぉー


声優のピラミッド


それから1週間後、逗子丸は声優事務所【ラムチョップ】に来ていた。養成所に入って1年経ったが事務所に来たのはこれが初めてだ。コンクリート打ちっぱなしの冷え冷えとした社屋は社長の黒山椒にピッタリ。などと考えつつ、いよいよ事務所の扉を開く。するとそこに4-50人ばかりの人がごった返していた。
 
逗子丸「な、なんじゃこれは!」
そこに同期の安土寿雄(あづちとしお)と蛍光タイツ、情報通のニーハイピンクが寄ってきた。
ピンク「ズッシーも受かったんだ!よろしくね。これ、全員預かりだよ」
逗子丸「え?HPに乗ってる預かりの名前って、せいぜい10人ぐらいだったけど。ラムチョップって少数精鋭が売りじゃなかったっけ?」
安土「表向きは10人だけど、実際の預かりの人間はこれだけいるんだよ」

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ここで解説。声優事務所では『所属』の前に『預かり』(ジュニアとも呼ばれる)という”試用採用”期間が設けられる。待遇もギャラもまだ半人前の状態なのである。ちなみに『預かり預かり』『ジュニアジュニア』というそれ未満の階層を作る事務所もある。逗子丸たちはいわゆる『預かり預かり』の状態といえよう。
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なんてこったい、ようやく声優ピラミッドの1段目に手が掛かったと思ったら、『地下1階からお入りください』ってことか!安土は選抜組で昇格はわかるけど、ピンクと俺は何故に昇格できたんだろう?疑問はあったが「きっと社長が独自の視点で採用してくれたんだ」と一人で納得する。


レッドはどこに


そういえばニーハイレッドが見当たらない。当確だったはずなのに。ついつい目線が彼女を探してしまう。何があったんだ。あの時何が、、、甘酸っぱい気持ちがこみ上げてきた。
と、そこに遅れて来たニーハイレッドが!駆け寄ってきたが、逗子丸には目もくれず。

レッド「部持田(べじた)センパーイ!(むぎゅ)私も無事に上がれました!この前の収録ではありがとうございました!ニャハッ☆(むぎゅ)」
 
(むぎゅ)って何だ、(むぎゅ)って!!あのクールな部持田先輩も微笑んでいるではないか!ファーーーーン。特急列車が目の前を通過する音が聞こえた。ニャーーハッーー!


社長面談


安土「今日は預かりの人間を全員集めて面談があるんだ」

そうだったのだ。所属審査に合格したら、後は安心してピラミッドを登るだけかと思ったが違うのだ。ピラミッドを登る権利は期間限定のパスポートが必要だったのだ。そして当然、登っている途中でもここにいるメンバーはどんどん突き落とされていくのだ。声優界のビッグサンダーマウンテン。......ま、まぁそうはいっても今日は記念すべき声優第1日目。そう、昨日までは“声優志望”の養成所生、今日からは事務所所属(預かり預かりだが)“声優”なのだ。ジーン。感動。
 
逗子丸の面接の順番がやってきた。机の向こうには黒山椒社長が座っていた。今日も目が笑っていない。

逗子丸「宜しくお願いします!」
手元の資料を見ながら社長が口を開いた 。
黒山椒「お前はね、声が面白いから採った」
逗子丸「はい!ありがとうございます!」
黒山椒「でも勘違いすんなよ。お前程度の声なんて、駅前の本屋で立ち読みしている間に何人でもすれ違う」
逗子丸(ちょ、え?)
黒山椒「まあ、せいぜい頑張って」
門出のお言葉頂きました。やーなんという評価の高さ、泣ける。
 
帰りに渡されたのはA4の紙1枚。『ラムチョップ心得10ケ条』。
“所属”たるべき者に対する精神訓がそこには書かれていた。「ははぁーーー」と心得を押し頂いて退出する。精神はすでに擦り切れちゃってんだけど。帰りの道すがら『心得』を口に出して読んでみた。

1、プロとしての自覚を持つ

2、挨拶をしっかりする

3、外に会社の愚痴や不満を漏らさない ・・・・・・

いやいやいや、そうだろう、そうだろうけども!うーん。泣けてくる。。。
次回、逗子丸に預かり声優としての試練が!