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ボイス・サーガ

 この物語は声優からナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。
 第19話

アニメの現場

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第19話「アニメの現場

 

安土(あづち)はたまたま通った音響監督のワークショップからアニメの番レギをゲット!いよいよ収録が始まる。

 

 

 

逆マウンティング争い

 
昨夜は興奮からかほとんど眠れなかった。万が一電車が止まったら、途中迷子になったら。いらない不安が襲ってくる。
 
早々に家を出て、スタジオに2時間前に到着。近くの公園で台本をチェック。収録まで後30分。足早にスタジオ入りしたが一番乗りだった。
 
「こないだの現場で〇〇がさぁ」
「久しぶりぃ、元気してた?最近忙しそうじゃん」
しばらくすると人が集まりだし、あちこちで有名声優同士で談笑している。
 
何だか自分も売れっ子声優たちの仲間入りをしているみたいで胸がこそばゆい。ブースの入り口では不思議な光景が繰り広げられていた
 
新人女「私の方が後輩なのでここの席は私が座ります。」
どうやらドア近くのイスを新人同士が取り合っている。
新人男「僕がドアを開けるので大丈夫ですよ!」
新人女「いえいえ私の方が年下なので”ドアマン”やらせてください。」
 
安土「しまった、出遅れてしもうた!」
 
先輩や音響監督に”自分は気が利きます”とアピールしているつもりなのだ。ここでは自分がいかに謙虚であるかを競って、下へ下へと向かっているのだ。逆マウンティングだ。時にそれは卑屈な謙虚さにつながっている。
 
他にも新人声優にはお茶入れや宴会での振る舞い方など『暗黙のルール』はいくつも存在していた。そして、音響監督からどのパートから収録していくかの説明がありテスト収録が始まる。この時に自分が入るマイクを確認していく。
(アニメの現場ではマイクが3−4本で入れ替わり立ち代りマイクに入るのだ)
 
まず現場がある売れっ子たちのパートから優先して収録していく。そして出番がやってきた。若手売れっ子ヒロインの女の子との会話だ!
 
安土(男A)「こんな夜中に女の子が一人で出歩いてちゃいけないんだぜーー」
ヒロイン「きゃーーー」
安土(男B)「叫んでも誰もきやしねー...ぶぎゃ!」
監督「はい、オッケーです。では、本番まいりまーす」
 
途中ヒロインの子に事前に渡していた方言指導の資料を見た見てないで一悶着あった。
ヒロイン「そんな資料、もらってないので出来ません。」
監督「え!?マネージャーさん渡してないんですか?」
マネ「いや、僕は確かに渡しましたよ!!」
監督「うーん、ここで言い合っても仕方ないのでここの部分は今度”抜き”でとります。」(”抜き”というのは忙しくて時間がない人や、問題があった場合など、セリフを別の日に一人でとったりする事)収録の最後はガヤの収録だ。
 
この辺にくると中堅ベテラン声優さん達は先に終わり、新人、若手での収録となる。


幻想のトップスター

 
収録後、初回の打ち上げに誘われた。
なんと、隣には主役を担当している荻窪さんだ。10年キャリアがある売れっ子男性声優だ。
 
安土「やっぱ売れっ子は上手でんなー。最近めっちゃ活躍してはりますやん!」
荻窪「ありがとう、でもそんな大した事ないよ。」
安土「またまたーそんな謙遜せんといてくださいよー」
荻窪「本当だって苦笑、僕達みたいな若手は、まだバイトしないと生活もままならないよー」
安土「え?え!10年のキャリアでも若手ですか!」
荻窪「だって、僕のギャラと安土くんのギャラは似たようなものじゃん」
 
解説:声優のギャラはランク制で決まってる。セリフの多い少ないじゃなく1話いくらとなっている。売れっ子だとしても、よほどのスターでない限り、最低ランク15000円のままの声優が多い。それでも所属者は「ランカー」と呼ばれる。
 
安土「で、でも、色んな作品やってますやん、よく名前見ますよ」
荻窪「全部がレギュラーって訳じゃないからね。食べていくには最低でもレギュラー5本ぐらいは常に持ってないと家賃も払えないよ」
 
(番レギ一本奇跡的に決めるのにこんな苦労したのに常に5本だなんて!)
 
荻窪「純粋に声優だけならトップクラスで1000万いくかなー。あ、でも歌やイベント、ゲームにパチンコなんかを合わせると、すごく稼ぐ人はいるけどね。いわゆるアイドル声優だね」
安土「アイドル声優…ですか」。
苦いものがこみ上げる。
 
辛いことはたくさんあったけど、それは一山当てれば全て報われると信じていた。主役の声優でさえ実は、毎日の生活費を捻出するのに必死なんだと思うと急に切ない気持ちになってしまった。頂は遠い。あまりに遠く、自分には無理だと思えてきた。
 
<プルルルル>
 
尼崎社長「あ、安土くんお疲れ様、来週ちょっとドラマCDのお仕事して欲しいんだけど大丈夫だよね?」
 
次回 地獄のドラマCD