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ボイス・サーガ

 この物語は声優からナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。
 第26話

メイズ・ランナー

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第26話「メイズ・ランナー

 

声優界を去った安土(あづち)。逗子丸(ずしまる)も事務所を辞めるが、声優の道は諦めてはなかった。

 

 

 

音響監督のワークショップ

 
ネットを巡りに巡って見つけた。これだ!これに賭けてみよう。
「音響監督ワークショップ。“やる気”ある人を望む!」
安土はワークショップからアニメの番レギをゲットしたんだ。安土にやれてオレに出来ないわけがない!オレの“やる気”はまだ消えていない!小さな炎が灯った。

意を決して、日暮里の雑居ビルにある、音響監督のオフィスの扉を開けた。

音監「あー君が電話くれた逗子丸くんか。待ってたよ」
小柄な中年男性が招き入れた。

逗子丸「よろしくお願いします。ラムチョップにいたんですけど先月辞めまして。それでここでイチから学び直そうと参りました」
音監「ウチはね、“やる気”あるヤツが欲しいんだよねー。根性っていうか、気合っていうか。声優ってさー夢だけ見てるヤツも多いだろ。その点キミは“やる気”だけはありそうだな」
逗子丸「事務所を辞めてますので、甘い考えでここに来てません!」
音監「なかなか頼もしい!気合もいいね。そういう時はやっぱりツキもあるんだよね。通常はレッスンから始めるんだけどさー。いま丁度、次の作品のキャスティングしてたところなんだよー。主役は“まる川ばつ男”君なんだよね。知ってるでしょ」

トップクラスとは言わないまでも、そこそこ有名な声優だった。
逗子丸「名前だけは、お会いしたことはないですけど」
ゴクリと飲み込み次の言葉を待つ。

音監「やっぱり“やる気”あるやつと、作品を作りたいっていうのが、俺の作品作りのポリシーなんだよね。“やる気”次第で考えるよ。今はまだ準主役も決まってないし」
逗子丸「じゅ、準主役!?ホントですか!それで内容はどんなアニメになるんでしょう。役にハマるかな。。。」
音監「まああれ、今回は絵は無くて、CDでの発売になるんだよ。昔話を朗読にした作品なんだよね。“やる気”次第で大きなステップになると思うんだよねー」

(いわゆるCDドラマってやつか、ちょっと残念。そういえば安土も出たって言ってたしな。。。ほんとにステップになるのか?。。。有名声優との共演!しかも準主役って響きの魅力にあらがえない。モブじゃなくしっかりした役が欲しい!次への階段が欲しいんだ!)
逗子丸「それではお世話になりたいです。是非に!」

音監「おー“やる気”みなぎってるね。じゃあ早速だけどここにサイン頂戴。こういうことはきちんと契約書作ってたほうがいいからね。で、CDは何枚売れる?まあ普通みんな30枚からなんだけどね。50枚くらいいけそうかな」

見落としていた。話に引き込まれて周りが見えてなかった。テーブルの上には影薄子に売りつけられたCDが山積みされていた。(第22話)クラっと来て意識が飛びそうになったがこれだけは絞り出した。

逗子丸「やはり辞めときます!スミマシェンでした!」
そのままマンションの一室から飛び出した。

背中で叫ぶ声がする。(今やるって言ったよね!チャンスから逃げるのか!)
 


巨大迷路の出口

 
あの自称音響監督はCDドラマしか作ったことがない人だった。痛みには慣れていたはずだった。でもまだ痛みを感じる。声優界が?いやジプシー達を馬鹿にしていた自分自身が。帰り道の満員電車に揉まれながら、自問を繰り返す。

『チャンスから逃げるのか』『いや逃げるんじゃ無い。こんな底辺じゃ無いどこかに行くだけだ』『ここでは無いどこかって?どこ?』答えは家に帰っても出なかった。

数日の煩悶の日々がすぎたある日。
『ラムチョップの黒山椒社長に唯一ボロクソ言われなかったのは。。。』『もしかして、もしかすると、それはナレーション!かも。。。』

逗子丸は声優界という巨大な迷路から抜け出せるのか!?
明けない夜はない。きっと。がんばれ逗子丸!がんばれ皆んな!
 
次回 スカイウォーカーの夜明け(前編)