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ボイス・サーガ

 この物語は声優からナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。
 第27話

スカイウォーカーの夜明け(前編)

ボイス・サーガ

第27話「スカイウォーカーの夜明け(前編)

 

声優界の迷路から抜け出せない逗子丸(ずしまる)。ナレーションに新たな希望を求める旅が始まる。

 

 

 

猪鹿蝶とナレーションスクール

 
事務所を辞め、放浪の末に見つけたのはフリーのナレーターをキャスティングしている「猪鹿蝶」だった。勢いでナレーションスクールにも飛び込んだ。
ナレーションをもう一度学び直すことに躊躇はあった。また苦しい養成所生徒をやるのか。ここでも騙されるんじゃないだろうか。それでも前に進むことしかできなかった。それが芸能の道。立ち止まったら倒れるから。

ナレーションの授業は、声優であった逗子丸には新鮮だった。表現の方向の違いに戸惑いはあったが。

講師「で、逗子丸くんはどんな番組やりたいの?」
逗子丸「報道です!TVタックルみたいな」
講師「いやそれ情報バラエティ。君、全部間違ってるねー!」

講師陣のダメ出しに迷い悶絶しキクラゲを食いちぎる日々。声優時代からの認識は、読み方やありようも含めて間違っていたのだ。それに気づくには時間が必要だった。もちろんそう簡単には仕事に繋がっていかない。声優時代と同じになるのではと、気ばかり焦る。それでもナレーションは、案外自分にはあってるのかもと感じていた。
 


1本の電話

 
年の瀬が迫るある日。見知らぬ番号から着信が。

極細木「あ、逗子丸くん?猪鹿蝶の極細木(ごくぼそき)スガ子です。競合とかスケジュールとか…」

そう!電話の主はナレーション界を牛耳ると言われている、あのゴットマザーだ。何を言われているのか、上の空でよくはわからなかった。

逗子丸「え?え?ありません!なーんにもありません!よろ、よろ、お願いします」
極細木「まだ候補。決まったわけじゃないワヨ!じゃーねー」ブチッ
逗子丸「…………ふぅぅぅ」
あまりの急な展開に、気持ちも呼吸もついていけなかった。

『声が……掛かった』もうそれだけで天に登る気分だ。体が震え出した。武者震いなのか。いやそれはただの風邪だった。3日寝込んで、それからさらに7日の後。
再び携帯電話が鳴った。

極細木「決まったわヨ。じゃあ12月25日18時からゴジラスタジオ入りで、よろしくネ。厚みがあって親しみやすい声がよかったみたいヨ」
逗子丸「え!?......あ、ありがとうございます!」

そう答えたが、あまりに唐突に、あまりにあっさりと物事が展開されている。
逗子丸『ちょっと、あれ?今、オレ、ボーっとしてたのかなぁ』
それが正直な感想だった。だって、これまで“チャンス”を掴んだ経験なんてなかったのだから。それでも込み上げる熱い何かを、ゴジラの如く咆哮に乗せて空に解き放った。
 


地上波デビュー

 
年が明けて元日。外は清々しい静寂に包まれている。温かなお雑煮から湯気が立っていた。
息子の隣で母は静かに泣いていた。

『全国のビール党へ。今年も、スペシャルヤッパリフリー!!』
逗子丸弘、地上波デビューのCMだった。ビックスポンサー。それは幾度も繰り返された。だってCMだから。

O.Aされるまでは分からない。直前で差し変えられる事もあると聞いていた。そんな恐怖と背中合わせの元旦。
逗子丸「あれ?今の、本当に僕の声…だった?」
テレビから流れる自分の声に、なかなか実感が持てない。
逗子丸「これは、うん、やっぱりオレの声だ。間違いない。やった!本当のデビューだ!これで、ここから、スタートだ!!」

勢いよく家を飛び出した逗子丸は、正月の清々しい冷気をかき分けて走り出す。とりあえず町内のコンビニを4軒回って商品が置いてあるか確認して回った。あった!ちょっと売れ行きが心配になって、4軒分の“スペシャルヤッパリフリー”を買い占めた。

缶を開けると一気に飲み干す。
逗子丸「プッハー!これからはナレーションで勝負するんだもんね。フリーーー!」
次回 スカイウォーカーの夜明け(後編)