ナレーターメルマガ

ボイス・サーガ

 この物語は声優からナレーターを目指す迷走の物語である。おおむね事実。
最終話

「男達の旅路(あるいは安寿と厨子王)」

ボイス・サーガ

最終話「男達の旅路(あるいは安寿と厨子王)」

 

逗子丸(ずしまる)の前に、猪鹿蝶のマネージャーとして、彗星のように現れた安土(あづち)。二人の男の最終章が始まる。

 

 

 

二人の男、最終章


安土「せや、新番組で、街ブラ系の番組でナレーター探してるんやけど、これに向けて一本作ってみーへん?こうなんていうか、逗子丸の厚みのある柔らかい響き活かして、人情味がある読みで。絶対合うって!」
逗子丸「はぁ、本当にそれ僕なんでしょうかね?他の人の方が合うと思いますよ、シュン」
安土「オイオイ、ええ加減にしとけよ、自分ができることを精一杯やってみてぶつかる。与え手になる。それがプロや!それもせんとウジウジ言うてるよーなら辞めてまえ!」
逗子丸「...シュン」
長い沈黙のまま、二人は別れた。 
 
マネージャー安土は例の「街ブラ系の新番組」の制作会社を回っていた。
安土「今回はどんなタイプのナレーターを探してるんでしょうか?」
P「そーね、まだロケも行ってないから、はっきりとはいえないけど。味のある感じで一緒に旅している気分になれるような読みの人を探してるんだよね」
安土「そうですか!猪鹿蝶のサンプル持ってきましたんで、ぜひ候補として考えてください!」
P「でも別番組で”コグマ事務所”の人使ってるから、そこにお願いしようと思ってるんで。あそこベテランも多いし。今日は、この後、会議があるから。後で聞いておきまーす。また何かあったら連絡するので、じゃあ」
 素っ気ない対応は慣れていた。
その後も、再三の足を運んだ。忙しいのか、幾度訪ねても留守で会う事ができずだった。
そして新番組のOAまで10日と迫っていた。
 
この日は朝から土砂降りの雨が、猪鹿蝶オフィスの窓を叩いていた。
安土「さすがに営業に行っても無駄か。やっぱり“コグマ”のナレーターで決まってしもーたかなー(涙)」
極細木「そうね、こんな雨じゃロケも中止だろうし、デスクワークでもするとしますか」
 
 そこにずぶ濡れになりながら逗子丸がぬぼーっと入ってきた。

逗子丸「新しいサンプル出来ましたんで。き、聞いてください」
安土「ようやっと出来たか!(そうだ!こんな大雨の日はロケも出ていない)ちょっと出かけてきます!」
 
 果たしてそこにプロデューサーはいた。
P「こんな天気の中わざわざやってきたの!?」
安土「はい、で、いいナレーター持ってきました、聞いてください!」
P「いやー実は色々悩んでた所だったんですよ」
P「ーーーーーー。ウン、いいね若いのに人情味もあって。逗子丸さん。彼でお願いします」
安土「ほんまでっか!あ、ありがとうございます!」
その日、二人は懐かしのせんべろ酒場で祝杯をあげた。
安土「この雨で靴がガバガバになってもーたワ、ハハハ」
逗子丸「ホントにありがとう。なんか心まで救われた気がするよ。靴ぐらいプレゼントするから。キクラゲお代りーお願いしまーす!」

それまでの旅路を振り返りながら杯を空けていく。あの顔この顔。
 隣の席では養成所の生徒と思しきメンバーが大騒ぎしていた。

「今日のオレ、役のアレがハマってたよね」「アレは無い」「わかるー」
「絶対好きだろ」「コスプレーヤーらしいぞ」「どうやらここだけの話、、、」
「あーそういえば、ジャーマネから声掛けられてんの見てもうた」
 二人は目を合わせ、苦笑いしながらビールを胃に流し込む。

安土「さあ、次の未来の話をしようか」
ボイス・サーガ 第1章 完