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小さな奇跡

File.1 ナレーターかすみん

星は昼にも輝いてる

 - 後編 -

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 私程度がサンプルつくっても何もならないだろうし

 
2007年。かすみんは再びプロのナレーターを目指して、スクールバーズに通い始めた。同期生の中には、すでにプロで活動するナレーターや声優、アナウンサーたちもいた。
 
初心者だった同期の中からも、ボイスサンプルを認められ、レギュラーをゲットする者も出てきていた。
 
クラスの中ですら飛び抜けられていない自分。漠然とした不安ばかりが大きくなっていく。ここでも私は選ばれない。
 
「ナレーターにはボイスサンプルが大切であろうことは分かってたんです。でも実際に行動にうつすことはしなかったし、できなかったんです。私程度がボイスサンプルをつくっても何もならないだろうし、って」
 
「営業という言葉だけが頭の中に響いてたんです。”見ず知らずの会社を毎日訪問して、ボイスサンプル渡してまわる”イメージしかなかった。そんなことはとても私にできそうにない…」
 
「仕事の経験がないので営業できない。仕事をするには営業しなきゃ。でも仕事したことないし…不安のループにはまってました。嫉妬や焦りで、この頃の私は顔が歪んでいたかもしれない」
 
このスクールでも認められない。プライドが打ち砕かれそのかけらも残っていなかった。
 
いや本当は理由をつけ何もしないことで、プライドのかけらを守っていたのかも知れない。
 
そんなある日。講師の言葉が引っかかった。
 
『誰がどんなふうに売れていくかは誰にもわからない。だから誰か他の人まかせではなく、自分で準備して行動することなんです』
 
『悩み、自分と向き合うことは、時には必要なことですが、同時にそれは最も大切なもの「時間を浪費している」んです。今できることを行動にうつすことで勢いの渦がうまれ「次にやれること」が明確になっていく』
 
その言葉でプライドのかけらがすこしだけ溶けた。かすみんは、ボイスサンプル収録をすることを決めた。
 


 

 心を許せる親友、たった一人だけに聴いてもらった。


サンプル収録は「ある意味で残酷な鏡だった」とかすみんは言う。
 
それまでは漠然としていた「何かが違う」と感じる自分の読みの「何が違うか」が明確になったからだ。
 
私は、こんなに下手だったんだ…甘かった。
 
サンプル収録はやってよかったと思う。課題が見えることで今何をすればいいかわかったから。
 
でも、営業はやっぱりできないとおもった。
 
こんなレベルでは同期生たちにも聞かせられない…自分のイメージしている読みが表現できていなかった…
 
長く曲がりくねった道を、苦しみながら遠回りした6年間。その結果である「ボイスサンプル」を封印したかった。でもそれでは悔しかったし情けなかった。
 
出来上がった自分の分身であるボイスサンプル。それを心を許せる親友、たった一人だけに聴いてもらった。
 



小さな奇跡は、思いもよらないところで


サンプル作成から一ヶ月以上たったある日。電話が鳴った。

『ボイスサンプルを会社に提出してみたんだけどね。そしたらなんと!プロデューサーがかすみんでいくと言ってくれたんだ!明日ナレーション収録だから、スタジオに来れるかな?』
 
小さな奇跡は、思いもよらない所で起きていた。

一人だけボイスサンプルをきかせたあの親友からのメッセージ。制作会社時代からの親友だった彼女は、まだテレビ関係の仕事をしていたのだった。
 
「”マジーーー?!なんで私?”の一言。びっくりしてそれしか言葉が出なかった(笑)”仕事がとれる”なんて想像すらしてなかったし、結果もさんざんなサンプルだったから」
 
現場では緊張のあまり何があったのかはほとんど覚えていない。
 
ただただ精一杯自分にできることをやって、帰りに「良かったですよ」と言われた時、いろんな気持ちが溢れて涙が止められなかった。
 
はじめはCSの小さな仕事。だが現場での頑張りをスタッフたちが支えてくれた。
 
「次はあれもやってみる?」「これも頼んでいい?」少しずつだが、頼まれることが増えてきた。
 
「小さな奇跡を”次”につなげていくことがプロなんだ」としだいに手応えを感じた。
 



星は昼にも輝いてる


「私が勝手に思い描いていた”営業”というものは、やったことがないからこそ想像が一人歩きしてたんですよ…」と彼女は言う。
 
「私に見えていなかっただけで実はチャンスってどこにでもあるんだ、と思いました『自分から意思表示をしておく大事さ』がわかりました」
 
「バーズでずっと教わってたことなんですけど、後になってみないとわからないもんですね。”まだ私には早い”とか”何をすればいいかわからない”で何もしないでいると、昼にもそこにあるはずの星の輝きが見えないままなんですよ」
 
「声優事務所にいたころの同期生の中には、仕事をもらっている人たちがいました。でもその人たちは、与えられたものをこなすことに必死で、ずっと不安におびえながらバイトと稽古をする毎日だったと思う」
 
「私は、偶然のラッキーだったけど、そのことで”何をすべきか”を自分で発見することができた。この先も続けられるのかという点では不安はありますが、漠然としたものではなくなったんです。今は早く”次”にいきたい。私はこれですといえるサンプルをもって、チャンスをつかまえていきたい」
 
小さな奇跡は彼女に仕事のチャンスだけでなく「心の強さ」を与えてくれたのかも知れない。

かすみんの瞳には、ファッション番組でナレーションをしている「未来の自分」が映っている。

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